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日本再生可能エネルギー総合研究所は、再生可能エネルギー普及のための情報収集と発信を行っています。

リポートReport

 2013. 7.15 ドイツ視察ツアー報告1
          再生エネで稼ぐ町の作り方(上)

                                    

はじめに) 

 再生エネ総研は先月末から7月の初旬にかけて、初の主催ドイツ視察ツアーを行いました。

 テーマは2つで、ひとつは再生エネの普及に伴って必ず必要になると考えられる「エネルギーの水素貯蔵」の先進プロジェクトを見ること。そして、もうひとつは、自治体における再生エネの利用実態を肌で感じてもらうことでした。今回は、後者についてご紹介します。

 日本各地の自治体さんが再生エネによって地域の活性化を図りたいといろいろな取り組みを始めています。しかし、その方法に悩み相談を受けることがしばしばあります。その中でもある自治体の再生エネのキーマンは「メガソーラーは、どうもあまり好きになれない。地元への貢献度が低い気がする。」と私にポロリとつぶやいたのが印象的でした。

 日本の全量買取制度は、太陽光バブルでスタートしました。今、制度は地域の利益へどう結び付けられるかという点で大きな岐路に立っていると言えます。そんな中で、今回のドイツの町のとても面白いお手本になると考えます。 

再生エネで500%の電力を生み出す町

 私が、7月初めにこの小さな町ヴィルトポルズリートを訪ねたのは、昨年秋以来これで2回目になります。位置は、ドイツの南部、ミュンヘンを州都に抱えるバイエルン州の南西の端っこで、人口わずか2500です。前回の取材の報告もメルマガやWEBでご紹介しています。


(ヴィルトポルズリートの町)

 なるべく、繰り返しを避けながら、新しい情報を含めて書き記したいと思います。それでは、もう少し、全体の紹介から。。。。

 町は、20年前の前町長の時代から再生エネ導入を始め、今や町の消費電力の5倍を再生エネだけで稼ぎ出すまでになりました。今回も丸一日付き合っていただいた町長アルノさんの話では、この町の取り組みが、『再生エネチャンピオンスリーグ』(決してギャグではなく、真面目なコンテストだそうです。)でちょうどドイツ優勝を果たしたばかりだといいます。この後、ヨーロッパ選手権へと進み、もちろん、ヨーロッパチャンピオンを目指していると鼻息が荒い自信でした。

 前にも書いたように、この町は再生エネのデパートです。陳腐な表現ですが、それが一番ぴったりくると思います。合わせて 7基12MWの風力発電に始まって、4MWの太陽光、4基の発酵によるバイオガス、3基の小水力などなど、下記の表のように本当にバラエティに富んでいます。


(自宅の小水力発電機を説明するアルノ町長)

ヴィルトポルズリートの町の取り組み

エネルギー

規模

特徴

風力

12MW

市民風車

太陽光

4MW

200か所(公共390kW)

太陽熱

1900㎡

140か所

バイオガス(発酵)

1.5MW

4か所、町の暖房利用あり

小水力

58kW

3か所

プラスエネルギーハウス

 

スポーツホールなど

スマートグリッド

 

国のIRENEプロジェクト

 
(木造のスポーツホール、屋根に太陽光、プラスエネルギーハウス)

再生エネで稼ぐ仕組み

 一番気になるのは、そして、肝心なことは、この町が再生エネで潤っていることです。それでは、その仕組みはどうなっているのでしょうか。

 とにかく、決め手は町の持つ再生可能エネルギー資源を出来るだけ町で使い、町にお金が落ちる仕組みを作っていることです。再生エネの施設を作ってエネルギーを生み出す事業を行う時、必要なのはもちろん ①プラントの機材、②建設をする業者、③出来上がったエネルギーの販売、そして、④ファイナンスです。それぞれが組み合わさって機能して初めて、再生エネ施設が事業として稼働するのです。そのステップ全てがビジネスになり、そこにどう地元が絡んでいけるかが、再生エネで稼ぐための勝負ポイントとなるわけです。

 よく言われるように、よそからやってきた外様の企業がメガソーラー事業を行っても、地元の町に落ちる利益は、固定資産税と建設をお手伝いする地元の建設業者くらいです。これでは貴重な地域の資源である太陽光エネルギーを安く外に差し上げているだけになってしまいます。

 さて、このドイツの町では、この①から④まですべてのステップに町が絡む仕組みを作り、実行してきました。再エネの主力、太陽光と風力を進めた際の実際はこうでした。

 2002年、まずこの町はドイツですでにスタートしていたFITに合わせて、屋根置きの太陽光パネル普及プランを地元の民間企業と一緒に作りました。さすがにパネルを生産することはできませんが、町はメーカーからパネルの共同購入をして仕入れ価格を抑えました。もちろん、普及計画があるから設置ビジネスは地元の業者が参入してビジネスにしました。

 太陽光を設置した個人住宅では売電収入は町民のもの、公共施設の屋根からの売電はといえば、例えば、町のスポーツホール(木造)の屋根の収入は、施設を利用する青少年のスポーツクラブへと還元される仕組みになっています。

(手前が保育園、奥が小学校、屋根に太陽光パネル)

○市民風車が町を潤す

 発電能力12MWという風力は、それだけで町の消費電力の3.5倍を生み出します。これはすべてがいわゆる市民風車です。投資総額は、円安の現在では21億円近くになります。町民がそのうちの4割強を出資しています。残りは金融機関からの借り入れです。つまり、この風力発電のFITへの売り上げは、借入の返済が終われば、全額が町民の懐へと転がり込むことになります。設置時期によって変動しますが、町の出資者からは年率10%のリターンがあると聞きました。出資をしている町民は、旧型の7基で180人、新規に入れた2基で110人、新規は新しい出資者が7割以上と言いますから、合計で260人の町民が参加をしている計算です。

 もう少し、細かく見てみましょう。

 比較的周りに比べて子供の多い町なので4人家族平均として、およそ600世帯、つまり、2世帯に1人が風力発電に投資していると思われます。


(昨年秋から稼働した市民風車、2.3MW エネルコン社製)

 余談になりますが、町に到着し翌日の視察を前にした夜に、アルノ町長と町の議員数人とビールの杯を交わしました。通常、ドイツの地方自治体の長や議員は日本に比べて報酬が極端に少なく、他に職業を持つケースがほとんどです。ところが、アルノさんは町長専業だというのです。どうして?と周りの議員に尋ねると、自宅を含めて百キロワット単位の太陽光や小水力などを持っているからとの答え、そういう各議員も風力発電に投資しているとニコニコ顔でした。

 町は、もともと酪農から始まったそうです。スイスからチーズ作りを習って、質の高い酪農製品を生産してきました。今もそこかしこに乳牛が牧草を食むのどかな景色が広がっていますが、実際には9割の人たちは人口数万の近隣の街ケンプテンで働いているサラリーマンが主流です。決して農村ではありません。その収入に再生エネからの売電収入が加わるわけです。

 町の予算規模は小さくて、ご多分に漏れず財政自体は厳しいという実態です。でも、訪れた人たちがみな実感できるように、この町はたいへん裕福に映ります。その理由は明らかです。町は、固有の資源である再生エネ資源をうまく使いながら、町を豊かに導いています。

最初は疑いから始まった

 見てきたように、①から④までのどのステップでも、考えられるほぼベストの取り組みを町が行っているといえます。大事なポイントは、町が主導して太いプランを作り、町民とタッグを組みながら再生エネを進めてきたということです。

 繰り返しになりますが、再生エネ導入のスタートからすでに20年近い時間が経っています。最大の貢献者といえる現町長も任期17年目のロングランの働きです。最初からうまく行ったわけではないと、町長は語ってくれました。町民も疑いでいっぱいだったと言います。信じてもらえるようになるには、実際に風車を立てて一緒に動かして、またそれを見てもらって、という長い時間が必要だったというのが本当のところです。論より証拠、人は実際に目にするまでなかなか信じてくれない。そんな風に笑いながら説明をくれました。


○続きは、(下)に

 
ペレットボイラーなど熱の利用の実態、国のスマートグリッドプロジェクトの進行具合、子供たちに対する環境教育などなど、この町の山のような面白い他の取り組みは、報告(下)へと回します。

以上

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