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日本再生可能エネルギー総合研究所は、再生可能エネルギー普及のための情報収集と発信を行っています。

リポートReport

 2012. 9.17 どこへ向かう日本のエネルギー 「革新的エネルギー・環境戦略」を読む                                           
                                    

はじめに 

 9月14日に、政府の「エネルギー・環境戦略会議」が、やっと日本の将来のエネルギー政策を決定しました。

 「2030年代に原発稼働ゼロを可能とする」というところがニュースとしては強調されています。もちろん、原発政策の決定が目玉であることは間違いありません。
 「ゼロにする」という引き算が大見出しですが、同時に、「代替のエネルギーをどうするのか」という足し算はもっと重要になります。
 足し算の主軸となるべき再生可能エネルギーが、この戦略でどう扱われているのか、どこが日本の将来エネルギーのポイントなのか、取り上げます。

○『原発ゼロ政策』

 原発の話を無視というわけにはいかないので、海外の再生エネ戦略と絡めながら少し取り上げておきます。

 ご存知のように、この戦略は「30年代に原発稼働ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入する。」という文面が肝です。大間などの建設中の原発を含む再稼働問題、核燃料サイクル継続との矛盾の話など、ある評論家に言わせると、突っ込みどころ満載であることも間違いありません。

 しかし、私個人の意見としては、『原発稼働ゼロ』という文字が入っているところが重要です。つまり、今後作られるロードマップやそれを巡る議論が、原発をゼロにすることができるかどうかをポイントにして進むからです。

 すでに、この戦略にはいろいろな批判が、原発推進派と脱原発派の両方から行われています。しかし、これからは、どうやれば実現できるのか、本当に実現できるのか、というある意味生産的な方向で行われる、もしくは行われるべきだと考えます。

○原発ゼロは、国際的孤立?

 ドイツの再生可能エネルギーの取り組みを紹介するときに何度か書いたことがあります。良いことばかりではなく、困難も抱える課題も多くあるのが現実だと。一定の主張に有利に働くよう一方的な情報の伝え方をするのは、意味がないと思います。

 例えば、ひとつだけ書いておきます。

 戦略決定の後、イギリス、フランス、アメリカが懸念を表明したというニュースが流れました。日本が国際的に孤立するということを強調する内容でした。しかし、少し冷静に考えましょう。実は、3つの国の再生可能エネルギーへの取り組みは日本をはるかに超えています。

 イギリスは、洋上風力を含めた海洋エネルギー世界一を強力に推し進めています。2020年(2030年ではありません!)の再生エネ電力の目標は31%です。
 フランスは、原発大国のイメージばかりが先行しますが、再生エネへの取り組みも積極的です。原発企業と思われているアレバは風力、太陽光、エネルギー貯蔵などに大規模な投資をしています。ちなみにフランスの2020年の再生エネ電力の目標は27%です。
 アメリカも、今年の最初の3か月で、再生エネによる電力が原発の電力を上回りました。

 使用済み核燃料の再処理で、大枚をはたいてくれるお得意さんからの注文が減ったらどうしようという懸念は当然でしょう。自国での原発の新規建設が難しい国(久しぶりの建設計画も、コストの増大と最終処分場の問題で難しくなってきています。)が自国の原発産業のクライアントを失うことを心配するのも不思議はないかもしれません。内政干渉はできませんから、「困るかも」的な表明に留まってまっていますが。。。

 それぞれ、自らの国益を考えて行動するのですから、ことさら国際関係からの孤立のような取り上げ方をするのはいかがなものでしょう。気にすべきは、日本がすでに再生エネで先進諸国から遅れて孤立している事実の方ではないかとさえ思います。

○グリーンエネルギー革命の実現

 やっと本論に入ります。
 戦略の構成は、1.脱原発依存、2.グリーンエネルギー革命、3、エネルギー供給の安定、の3本柱です。これから2番目に入ろうという訳です。

 ここで再生エネの登場かと思うと、最初に出てくるのは、「節電・省エネ」です。あれっとお思いかもしれませんが、私は、腑に落ちます。

 引用すると「節電は10年(1兆1千億キロワット時)比で30年までに1100億キロワット時の削減を実現する。省エネルギーは最終エネルギー消費量ベースで10年(約3億9千万キロリットル)に比べ30年までに7200万キロリットル以上の削減を実現する。」です。
 節電で10%、省エネで18%の削減となります。

 節電も省エネも、たぶんもっとできると思いますが、とりあえずいいでしょう。なにより、トータルの消費エネルギーを減らすことが一番大事なことです。もちろん、CO2排出の問題も絡みます。
 節電、省エネというと、暑い夏に汗かきながらクーラーを止めるイメージを浮かべる人が多いかもしれません。また、これも一方的な話で、北海道で凍死者が出るから原発は止めてはいけない。ということを言う人もいました。

○まず、エネルギー消費を減らすこと

 実際に、必ずしも技術の革新を待たずとも、いろいろな方法で実現可能です。もちろん、省エネ技術の向上はさらに貢献するでしょう。

 戦略では、まず、家庭・業務部門でのLEDなど省エネ家電、燃料電池の導入を上げています。家庭用燃料電池の導入目標では、2030年に530万台と具体的な数字まで示しています。
 決定的に大きいのは、住宅やビル部門で、戦略の中でも重要ポイントとなっています。

 日本の住宅など建築物でのエネルギー損失は、莫大な量です。これを、断熱や換気機能を強化して、ロスを減らそうというのです。例えば、アルミサッシを止める、窓ガラスを複数枚にする、木製ドアに替えるなどで飛躍的に省エネになります。東工大のある調査では、アルミサッシを樹脂サッシに替えるだけで、年間の冷暖房の電気代が4割減るということです。

 また、「住宅・ビルは20年までに全ての新築住宅・建築物について段階的に省エネ基準への適合を義務化する。」と掲げて、改正省エネ法も含めた法制化の方針を明確にしています。

○熱利用とモビリティ

 原発も風力も基本的には発電の話です。全体のエネルギー消費に占める熱の割合は大変高いので(最終エネルギーのおよそ5割)この部分を減らさないと本当の意味での省エネにはなりません。
 今回の戦略でも、地中熱や太陽熱利用に言及しています。熱源としてのコジェネの推進、特に家庭用燃料電池が期待されています。

 もうひとつの大きなエネルギー消費主体が、運輸部門です。「新車販売に占める次世代自動車の割合を20年までに50%」が、戦略の中のコメントです。モビリティは再生エネを組み合わせることによって、地域の自立や国の安全保障にまで大きく貢献することができます。どんなエネルギーで動かすのか、注目しましょう。

○再生可能エネルギーの取り扱い

 実は、案外あっさりしています。
 細かいことを書いても仕方がないのか、原発の扱いに疲れてしまったのか、あまり具体性がありません。

 「再生可能エネルギーは、10年1100億キロワット時から、30年までに3千億キロワット時(水力を除く場合、10年250億キロワット時から30年までに1900億キロワット時)以上の開発を実現する。」ということです。
 2030年には、全体の30%(全体で1兆キロワット時)、水力発電を除いて19%という数字です。毎年、100億キロワット時よりやや少なめ、割合で1ポイント弱を増やしていこうという目標です。

再生可能エネルギーの増やし方

 正直言って目新しさはありません。並んだ項目のように官民の両面での振興策が必要なのは間違いありません。

 FITの効果的運用、公共施設への太陽光、蓄電池の導入、地域導入へ街づくりとの組み合わせなどが挙げられています。規制緩和で阻害要因を取り除くともしています。このあたりは、驚くような起死回生策があるわけでないのは当然で、まさしくどう実行するかにかかっています。

○必須事項の送電網拡充、エネルギー貯蔵にも言及

 「送電網」の整備について、なぜか2回も言及しているが少し気になりました。地域独立型だった日本の電力供給システムでは、案外各地域間の送電網が貧弱です。また、再生エネの伸長によって、これまでの発電場所とは違う場所での大規模発電も予想されます。需要供給の平準化策のひとつとして、送電網整備は欠かせません。

 今ドイツは、まさにこの送電網整備で苦しんでいます。政府の方針決定の遅さ、住民の反対など様々な要素がありますが、まずは、再生エネの伸びのスピードを読み間違ったことが大きな原因です。
 まだまだ再生エネの普及が遅れている日本では、今なら十分間に合います。

 また、再生エネ需給のバランスを取るためのツールとして、ドイツでは水素を使ったエネルギー貯蔵などの研究が今年から政府も大きく後押しを始めました。
 戦略では、「大型蓄電池の導入促進」という言葉で、とりあえずは触れています。

○今後、どの再生エネが有望なのか

 太陽光と風力発電は既定路線でしょう。加えて、研究開発・実証として、いくつかの技術に重点を置く姿勢を見せました。
 「高効率太陽光発電、洋上風力発電、高密度蓄電池、高度な地熱開発、高効率バイオマス発電などの技術開発・実証を加速し、中長期的には波力・潮力などの海洋エネルギー発電の実用化も目指す。」とあります。

 注目は、やはり洋上風力発電です。2030年に水力も含めて30%という数字を達成するためには、太陽光だけでは難しいのです。まずは、着床式の洋上風力を増やし、浮体式の技術を完成させて、一定以上の発電を実現させなくてはなりません。波力・潮力と併せた海洋エネルギーの開発は、世界第6位の海洋大国日本の最も有効な資源利用でもあります。

○まとめとビジネス

 政府の新しいエネルギー方針は、再生エネそのものにとっては、特に珍しいことはありません。しかし、洋上風力など海洋エネルギーにスポットライトを当てたこと、再生エネ拡充のバックアップとして、送電線整備など系統の安定化を強調しているところなど、ポイントを押さえているとも言えます。

 また、住宅関連をはじめとした節電・省エネの重要性が強調されています。今、エネルギーを作るいわゆる「創エネ」ばかりに注目が集まっている中、一見地道な「省エネ」の重要性を再認識させることにつながります。家庭では、燃料電池の普及が切り札のひとつになると考えられているようです。

 また、事業の観点から見ても、FITスタート後の爆発的なメガソーラーブームとは別に、様々なフィールドでビジネスチャンスがあることを示しています。

 その観点から、原発の話をもう一度しておきます。

○原発の処理をどうするのか

 今回の戦略に対する批判のひとつに、例えば青森の六ヶ所村に配慮して核燃料サイクルの維持という原発ゼロと矛盾した政策が入っているというものがありました。

 戦略をよく読むと、確かに現状維持しながら結論を先送りする形です。しかし、一方で、直接処分の研究に着手し、「もんじゅ」は年限を区切り成果を確認して研究を終了し、バックエンドは国も責任を持ち、最終処分場の確保に向けた取り組みに直ちに着手する。となっています。

 事故を起こした福島は別にしても、使用済み燃料の処理について、次世代に先送りしないと宣言をしたわけです。(保管場所の関係で、先送りは物理的にもできないのですが。。。)最終処分場の選定、原発の解体除染のやり方、そして、廃炉原発の自治体の扱いが遂にまな板の上に載せられることになったと言えます。

 ここからは、賛成、反対の議論では解決しません。具体的な解体除染技術、最終処分場の建設技術や中間貯蔵施設を含めた一連の手順とロードマップが討議されなくてはなりません。
 そこには、海外技術の導入も含めた大きなビジネスが控えています。

 最後に、ドイツのエネルギー戦略に関する実績を挙げて締めとします。

○ドイツの驚異的エネルギー戦略

 ドイツは、実に驚くべき実績を上げてきています。

 2022年には原発を廃棄し、CO2の排出を削減し、エネルギー消費を減らし、再生可能エネルギーを拡大し、さらに経済成長も達成するというものです。まさに、一石五鳥ともいうべき欲張り戦略です。そして、実際に、これまでの20年間で実績を上げてきているのです。

 エネルギー消費は6%削減、再生エネの一次エネルギーに占める割合は10%弱です。一方で、CO2の排出量は1990年に比べて26%減り、経済成長はこの間で30%を達成しました。

以上


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